一橋大学 社会学研究科 国際社会学プログラム
国際社会学transnational sociologyは、現代社会を揺るがす大きな要因である国境を越えたさまざま過程や構造を対象とし、社会学の分析ツールを用いて、その解明を目指す研究領域です。そのアプローチの特徴は、一方でこれまで社会学が自明視してきた国民国家という分析単位の乗り越えを試みながら、他方で国際関係論・国際政治学とは一線を画して、社会学の固有の強みである具体的な社会関係に根ざした実証を重視するところにあります。過去20年ほどの間に、このアプローチは日本の中で独自の領域として着実に確立してきました。この中で、一橋大学大学院社会学研究科にはいち早く国際社会学の講座が1993 年に設立され、さらに2001年以降は2名の専任教員を有するプログラムとなり、現在は大学院生総計20名余を数え、限られたスタッフでありながらも国際社会学の大学院教育において一つの拠点としての重要な機能を担っています。
Welcome to Transnational Sociology Program at Hitotsubashi!
Transnational sociology is a new paradigm which analyzes cross-border processes and structures that are producing the great social transformations that we observe today. This new sociological approach attempts to go beyond the analytical unit of nation-state that the discipline of sociology has long taken for granted. But transnational sociology also values empirical studies which probe concrete social relations. This is a significant feature of sociology, which has distinguished it from related disciplines such as international politics or international relations.
In Japan, transnational sociology has steadily developed over the past twenty years. Hitotsubashi University pioneered in this domain, when in 1993 it established a new graduate program of transnational sociology by inviting Takamichi Kajita (1947-2006), a front-runner of the approach, as its inaugurating professor at the Graduate School of Social Sciences. Thanks to his pioneering efforts, many students have graduated the program over the subsequent decade and a half.
With two full time professors starting in 2001, our program has expanded and developed. It presently has over 20 graduate school students enrolled. These include many students who have graduated from other universities in diverse disciplinary backgrounds. Our program plays an important role by laying the foundation for innovative research and education in the broader field of transnational studies in Japan. Students coming from countries such as the Philippines, Korea, Brazil and China among others have also joined our program and are contributing their own point of views on transnational processes. We encourage our students to learn from diverse values and viewpoints from outside their home environment, to pursue fieldwork study so that they comprehend transnational social processes not only at the theoretical level but also at the level of concrete social practices, and to work side-by-side with their international colleagues.
The goal of our program at Hitotsubashi is to envision and develop a transnational sociology that can enhance our capability to act as well as to analytically understand our ever more globalizing world.
研究プロジェクト
北米における中南米他移民・難民をめぐる人道的管理レジームの形成
科研費 若手研究
アメリカ合衆国では、特に2000年代より非正規移民を主とする非市民に対する大規模な強制送還政策が進行する一方で、特定の条件を満たす移民層に暫定的な権利を付与し社会に統合しようとする動きが顕著となってきた。本研究は、このような選別的移民政策の下で、非正規移民の若者たちが、どのような社会的地位の移動を経験しているのか、暫定的な権利付与のもつ限定的な効果とともに、人種・エスニシティやジェンダーといった交差性に着目し検討することで、移民の社会階層移動を巡る経験の差異を規定する複合的なメカニズムを明らかにする。 現在までの研究成果

飯尾真貴子
専任講師
- 主な研究関心
国際社会学、国際移民論、強制送還研究(デポーテーション・スタディズ)、マルチサイテッド(多地点)・エスノグラフィー、移民の社会階層論 - 主要な調査フィールド
アメリカ合衆国、メキシコ
米国オレゴン州ポートランドの4年制大学(Lewis &Clark College)で国際関係学を専攻し第3言語としてスペイン語を習得。米国でのメキシコや中南米出身移民との出会いが原点となり、日本に帰国後、一橋大学大学院社会学研究科の国際社会学プログラムに進学。修士および博士課程を通じて、米国移民規制の厳格化が、メキシコ出身移民やその家族、そして移民コミュニティにどのような影響を及ぼしているのか、調査研究を続けてきた。主に、メキシコ・シティ周辺の大衆居住区(2011年~2013年)、メキシコ南部の農村地域(2014年~2018年)、米国カリフォルニア州農業地帯(2018年~2019年)において断続的にフィールド調査を繰り返すことで、計200人以上におよぶ移民やその家族の移住や規制を巡る経験、そして米国からメキシコ出身地域へと戻った帰還者の経験を聞き取ってきた。

竹中 歩
教授
- 主な研究関心
都市社会学、国際社会学 - 主要な調査フィールド
アメリカ合衆国、ペルー、スペイン
2023年4月に着任しました竹中歩(たけなかあゆみ)と申します。昨年までは、立命館大学に数年おりましたが、それ以前はアメリカやイギリスなど、長期にわたって海外の大学で教鞭を執っていました。専門は「国際社会学」で、ヒトやモノが国境を超える現象に関心を持っています。ペルーを中心にフィールド調査を行ってきましたが、さまざまな国々を行き来するペルー人を追い求めて、アメリカ、スペイン、日本などにも調査を広げています。これまで長く「移民」として暮らしてきた個人的な経験をも活かして、みなさまと共に一橋大学の国際社会学の発展に貢献できたら、と思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
研究プロジェクト
グローバル文化戦略としての「食」: 「ニッケイ料理」をめぐる階層の力学
科研費 基盤研究(C)
食が形成される過程は、社会階層の生産・再生産にどう関与するのか。本研究では、世界のグルメ界で脚光を浴びるようになった「ニッケイ料理」を切り口に、食が新たに創出される過程とその背後にある力学をローカル・ナショナル・グローバルの三つのレベルで分析する。なぜ、いつ、どこで、どのようにして、ある種の食が生まれるのか。この問いを探るため、「ニッケイ料理」が形成・推進され、消費される場である世界の食の祭典や各国に広がるニッケイレストラン、官庁・食文化団体の活動などを中心に、そこに関わる多様なアクターの相互作用と利害関係を解明する。
大学院志望者へ Prospective Students
社会学研究科における本プログラムの位置づけ
国際社会学担当の専任教員は、社会学研究科社会学研究分野(地球社会研究専攻)に所属しています。国際社会学プログラムは、研究と教育の方向性を大まかに示す単位であって、修了書などを授与する独自のコースを構成するものではありません。むしろ大学院生には、社会学研究科の他の関連科目と積極的に結びつきながら、学習を進めていくことを推奨します。社会学研究科全体の教育内容については、研究科のサイトを参照してください。
プログラムの目標と求められる資質
国際社会学プログラムでは、従来の国民国家の枠を超えた社会現象を独自の視点から分析する分析・調査能力をもつ研究者と高度専門人(シンクタンク、国際機関、国内の公的機関、NGO、自治体における外国人や国際的な交流業務、企業において国際的な部署において活躍)の養成を目指します。
国際社会学の先端的研究に必要とされる能力は以下のように多様なものです。
- グローバルな視野
- 社会学や広く社会科学の伝統を積極的、かつ批判的に継承する理論と方法.
- 異なる社会とのコミュニケーション能力
- 特定の広域地域に関する具体的な知識や現場感覚
本プログラムはこれらの諸能力を予め獲得していることを前提としてはいませんが、これらを発展させていける潜在力と情熱をもった人材を求めています。 国際社会学の領域は未だ発展途上であり、その方法論や理論は既存のものに依存することは出来ません。このため最も求められるのは、独立した研究者としての自立性や主体的な構想力、そして試行錯誤を続ける強い意思と耐久力です。
修士課程の目標と求められる資質
修士課程では、博士課程への進学を通じて研究を志す者、そして専門性を生かした高度職業人として企業や公的機関で調査・研究・事業運営にかかわっていく者、これら双方の養成を目標とします。このため、以下のような資質をもつみなさんの応募を歓迎します。
- 異文化や他の社会に対する感受性・想像力。
- 少なくとも1つの基礎的外国語能力を有し、それを発展させる意思。
- 社会科学の基礎的な知識をもち、その発想法を身に付けて具体的研究へと応用する姿勢。
- 地域に根ざしたフィールドワークを実践する構想力と行動力。
博士後期課程の目標と求められる資質
博士課程では、国際社会学の独立した研究者として、独創的で先端的な研究を自ら構想し推進する能力を発展させ、その上に自らの研究プロジェクトを実行し、この分野に寄与する博士論文を完成させることを目標とします。
このため、以下の資質をもったみなさんの応募を歓迎します。
- これらをもとに博士論文プロジェクトを構想・実行し、これを完成しうる潜在力。
- 異文化や他の社会を理解するための感受性や想像力を備え、その向上のために特定地域で知識と体験を蓄積していく意志のある者。
- 少なくとも一つ外国語の高度な読解力と、フィールドにおいて利用しうるコミュニケーション能力の基礎をもち、その向上に努力を惜しまない者。
- 社会科学の深い専門的な知識に根ざした独自の構想によって分析枠組みを構築し、それに基づいて調査研究を実施する能力。
大学院情報
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