社会学/社会理論
社会学は、「さまざまな社会現象を、人間生活の共同という視角から研究する社会科学の一分野」を意味します。したがって社会学は、ミクロからマクロに至る多様な社会現象に取り組むことになります。しかしそれらはいずれも、次の問いに対する答えを探っていると言えます。

菊谷 和宏 教授
「社会」とは何でしょうか。コントやデュルケームが「社会」という言葉を使い、私自身も一橋大学の社会学部で学生時代を過ごし、今は学生に教えているわけですが、そもそも「社会」とは何か──。研究するほどに見えてくるのは、「社会」とは人類史上ずっとそこにあるものではない、ということです。ある特定の時期に、誰かが特定の定義をしたに過ぎず、いつ?誰が?という点については正確には分かりません。
今後の研究の方向性としては、この、「国なき後の社会の形」をできる限り具体化したいと考えている次第です。私には、何かを得たい、何かを勝ち取りたいという類の願望はありません。考え続け、歴史の事実をもとにコツコツと呼びかけてゆきたいと考えています。
佐藤 圭一 専任講師
私の主な研究領域は、環境社会学、政治社会学、社会ネットワーク分析などです。この中で、社会ネットワーク分析は、私が常に持っている1本の”鉛筆”のようなものです。私は社会ネットワーク分析という”鉛筆”を用いて、環境社会学的なテーマ、政治社会学的なテーマについて論文を展開していると言えます。
(1)日本の気候変動政策過程と他国との比較:日本経済団体連合会系・経済産業省系・環境省系という3つのグループ間の綱引きによって日本の気候変動政策のあり方は決まっています。これが他国とどう異なるのかを現在、比較研究しています。この研究は現在COMPON Projectという国際比較プロジェクトとして行っています。(2)福島第一原子力発電所事故後の社会運動の広がり:原発事故後、脱原発団体を中心にさまざまな市民団体が情報共有を行い、協力関係が形成され、大規模な社会運動が起こったことを分析してきました。(3)権力分配過程のコンピューター・シミュレーション:共通の権力者を仰ぐ個人同士が意見の違いを許容し、ローカルレベルで協力し合うことにより権力分配の不平等を緩和する過程を、ネットワークモデルを用いてシミュレーションをしています。

多田 治 教授
現代社会を多面的にかつ総合的に研究し、その成果を大学院・学部の教育へと有機的に結びつけ、かつ現代的な新たな課題にも柔軟に対応していける開放的で相互媒介的な研究・教育ユニット、それが「社会学研究分野」です。本分野では次の3つのリンクを重視しています。
【ミクロとマクロのリンク】
あらゆる変化は「細部」に宿っています。身近な世界の変化を感じ取ることのできない研究が、大きな変化について語ることはできません。しかし、細部にこだわるばかりで、そこから抜け出す回路を作れない研究は、結局自己満足に終わるだけです。システム・レベルのマクロな動態と日常生活レベルのミクロな動態を理論的・方法論的に接合していく視点を重視します。
【理論と調査のリンク】
豊かな知的好奇心と柔軟な想像力もまた、しっかりとした理論的裏付けと方法論的基礎なしには十分な成果を生み出すことができません。本分野では、それぞれの専門分野の中で、理論と方法・調査を結びつけていく努力を重視しています。
【批判と創造のリンク】
本分野に関わるスタッフは、研究・教育の現場において、現代の社会・文化とつねに接点を持つことを心がけています。大学院教育においても、時代の流れに呑み込まれない批判的精神をもちつつ、さまざまな分野で一歩先の社会を見据えた創造的実践に取り組むことの可能な人物の育成を目標としています。

netABM:エージェント・ベースド・モデリング用Rパッケージ
開発中のnetABMパッケージは、社会ネットワーク分析の手法を用いたABMを、Rの一般ユーザーが簡単に行うことができるようにするためのパッケージです。佐藤圭一講師が、日本学術振興会の科学研究費(基盤C)の助成を受け、2024年4月から取り組んでいます。